スイス大会 2011 (2)

核シェルターで一晩寝たが、イアホンをしていたせいもあり、
周りの鼾もあまり苦にならなかった。
ちょうど真上ではジュネーブのYJが寝ており、向かいではバーゼルのMSが寝ていた。
どちらも鼾をかきそう…。
6時50分頃になると皆ゴソゴソと起き出す。気が付くと目の前にKGとKFが居る。
一緒に朝食に向かう。
パンとチーズ、バター、ジャムとコーヒーのシンプルな朝食。
食べているとホテルに泊まった連中もやってきて一緒にコーヒーを飲む。
 
竹刀チェックは7時半からなので会場に上がるが、F先生やO先生の姿がない。
ベルンのKN先生や剣道連盟理事のRI先生に聞いても分からない、とのこと。
ウォームアップの時間が近づいているが、仕方ない。
車を飛ばしてホテルにピックアップに向かう。
ホテルの前で煙草をくゆらせているF先生を見つける。
「お茶しよう」という言葉であったが、こちらの時間の問題もあるので遠慮申し上げ、
O先生が下りてくるのを待ち、一緒に車で会場に戻った。
 
戻るともうウォームアップの準備をしていた。
慌てて着替えに行き、戻ると既に切り返しが始まっている。
竹刀チェックに行き、防具を着け列に加わったが、1本勝負数本と相面の稽古で終了。
でもこの時にKGとCPと1本勝負ができたのが嬉しかった。
特に3段のKGは本当に久しぶり。周り稽古で当たった時にお互いに目がニコニコする。
自分の半分くらいの年齢のKGだが、可愛い奴だ。
すぐ太っちゃうのをからかったりするが、よく動けるのは若いから。
勝負では打たせなかったと思う。こちらもいろいろ技を使うし、気も最後まで切れなかった。
そうそう、こういう奴と稽古したいんだよね。そう思った。
4段のCPも同じ。彼はいつも道場で一緒に稽古をしているが、ダメ出しばかりされ凹む。
でも言っていることは的確なので、僕に取ってはそれが課題。
最後には1本取られたなぁ。
終了後、KGと稽古できたことを喜ぶ。
「yasuさ〜ん、また速くなったねぇ。強くなりました。」そう言ってくれるだけで有難い。
「Kも強いやん。でも稽古できて嬉しかったよ。今日は頑張ろうね」
 
開会式後は女性、15歳以下、18歳以下の部がスタート。
ASPは昨日の試合で膝を痛めたということで棄権。
女性は初段が一番上。プール戦でみんな破れてしまう。
それと対照的にジュニアは好調。両方の部でローザンヌの仲間が決勝に残った。
 
11時半近くになり、ようやく2段以下の"Challenger"の部のプール戦がスタート。
90名のカテゴリーで4つのパートに別れている。
そのうち3つがスタート。僕達のパートはまだ。
BFが2本勝ちをしてプールを抜けた一方、
MKFやJDといった昨日初段を取った仲間がプールで早々に敗退してしまう。
順当に強い人が勝ち抜けているな、という印象。
結局自分達の試合は昼食後までおあずけ。

昼食は理事長がオーダーしてくれているBento。
鮭弁か唐揚げ弁を選べたが、唐揚げをチョイス。
「試合の前によう食べれんなぁ」と言われ、ちょっと後悔したが、ものの5分で完食。 
 
午後は居合道のデモがあり、それに引き続いてChallengerのプール戦。
残りを2試合場に分けられ、急遽自分がコートAのトップになっていた。
大慌てで面をつけ、試合場に入る。
プール戦はチューリッヒのSKとバーゼルのFS。
両方とも若い。SKは2段。FSは一緒に1級を取った人で、昨日のチーム戦3位に居た人。
「3段とかにも勝ってるよ」というDPの言葉もあり、結構厳しいグループやな、と思う。
SKには勝てる気がしなかったし、良くて2位抜けやな、と思う。
初戦はSK。やっぱり強い。どう捌こうかタイミングを図る。
何本かお互いに打ち合うも、決まらない。
と、ちょっと隙を見つけ、「メーン」と打込む。旗が揚がる。
フーッ、ちょっと楽になった。
「2本目」。さあ、向こうは焦ってくるぞぉ。
時間も結構経ってきたし、こっちもしんどくなってきた。
何かいつもより息が切れる。気管支が閉まる感じがする。
うーん、3分一杯までやりたくないなぁ。
「メーン」それは遠いぞ。じゃぁ、と思う間も無く身体が返し胴をしていた。
「胴あり、勝負あり」。
長かったぁ。
SKとFSの勝負を見る。順当に行けば文句無くSKの勝ち。
ところが、FSが出篭手を取ってそのまま1本勝ち。
あちゃぁ、SKが通過できへんのか。全くの番狂わせやなぁ。
さてFSとの戦い。
構えが固いなぁ。俺にビビってんのか?
「今日試合やるよね。絶対負けへんからな」と言ってきた時にも
和やかに対応したはずなんだけど…。
おっしゃ、篭手もらった!出端篭手で1本。
次いで、小手抜き面で2本目。
早かった。
1試合分休んだとはいえ、喉の閉まる感じが続いており、長引くのは遠慮したかった。
これで1位通過。
「yasuの胴、良かったよ。面、胴、篭手全てとったから、次は突きやな、と話してたんやで」
と、胴の瞬間の写真を見せながらRBが話しかけてくる。
結構いい胴の写真だった。
SKが来て挨拶する。「試合できてよかった。頑張ってね」。
次いでFS。「全然歯が立たなかったよ」「お互いに頑張ろうな」、そう言って別れる。
ちょっとだけ時間があるので、車まで慌てて気管支拡張剤のスプレーを探しにいくが、
持ってくるのを忘れてしまっていた…。
仕方なく、錠剤を2錠服用。
「ドーピング?」JDからからかわれるが、息の状態は芳しくない…。
 
ローザンヌではプール戦を抜けたのは6名だけ。
ここからはトーナメントなので、早く進むが試合場の変更が多く、みんな戸惑う。
自分の1試合目も相手が来ずに待ちぼうけ。
面をつけるのをずっと見ていた。
相手はチューリッヒのAO。身長差があるので、これは面くらいしか無いかなぁ。
シンプルな面と小手抜き面の2本勝ち。
もう面を外す暇はない。
続いての試合はアラウのNZ。TT先生の道場からの人。
道場毎に特徴があるが、
ここの人はガタイもゴツいし、試合では敵意むき出しだから、ちょっと苦手。
でも篭手と面で2本勝ち。
結構早くカタをつけられたので息は持った。 
 
あぁ、これで次の試合はローザンヌのSKとやなぁ。嫌やなぁ、本当にそう思う。
SKの剣道は本当にスタイリッシュで好き。無駄な動きも無く、的確。
で、超クール。地稽古でも威圧感を与えず、淡々と自分の仕事をしているように見える。
やりにくいなぁ、と思う。
試合開始。本当にやりにくい。お互いの癖も知っているから。
なかなか中に入れない。じりじり退がっているのがわかる。
何本かの攻防の末、気が付くと自分が試合場の縁近くにいる。
SKが押してくる。横に交わそうとするが、そうはさせまいとしてくる。
うん?いつものSKとは違う感じ。やる気やな、そう思う。
体を捌いて自分が試合場の中心に戻れるようにする。
しかし、居着いたところで面を1本取られる。
昨日今日で初めて取られた1本。時間もなくなってきているし焦る。
その後、試合場の床のトラブルで一時中断。仕切り直して始めるも時間切れで1本負け。
終わってしまった。ベスト8に残れず…。
でもSKの剣道に負けたんだからしようがない。1本負けで済んだのは良かったか。
試合後、SKに「頑張ってよ!優勝してよ!」と励ます。
試合を見ていたオリヴィエからは
「昨日今日の試合は良かったよ。でも、最後のSKとの試合は始めから気で負けてたな。
友人だからという意識があって優しすぎた。
試合が終わったらビールを肩組んで飲む様な関係でも、
試合の時には面と竹刀が自分に向かってくるだけ、という心構えを持たんとあかんかった」
と言われた。
気持ちの入り方がSKとの試合は異なっていたのは自分でも感じていた。
それを見抜かれていた。
SKは「yasu相手にはdominationを採って、絶対に入らさないようにしてたんよ」と。
残念だが、気持ちの弱さが露呈したのは自分にはいい勉強だった。 
その後、SKはやはりローザンヌのTPとともに決勝戦まで進み、2位となった。

オープンの試合が始まるまでのChallengerのトーナメント戦の途中、
去年のスイスチャンピオンのCKと並んで座ることがあった。
「見てたよ、試合。
昨日、去年のスイス大会、今年のカサハラカップのヴィデオを見てたんだけど、
この1年で本当に強くなったね。そしていい剣道をしていると思うよ。」
昨日もOltenの人から聞いたような言葉。
「いい剣道」というのはどのように考えているのか知りたくて、ちょっと突っ込んだ。
「まっすぐな剣道。姿勢もいいし、汚い剣道の対極。
日本人がやっているなぁ、と思わせる潔い剣道」とのこと。
その後、将来のことなどについてもちょっと話す。
「うちの道場のCPも居るから、CKだけに優勝してよ、とは言えないけど、頑張ってね!」
と言って別れる。
僕はCKよりもオリヴィエの流れを汲むCPの剣道の方が好きだ。いろんな面でスマートだから。
 
さて、オープンの試合が始まる。
プール戦からは順当な人が勝ち残るが、トーナメントに入った途端、番狂わせが生じる。
チューリッヒの優勝候補のCK、OK、DKが次々と敗退していく。
準決勝まで残ったのはローザンヌのCP、KG、バーゼルのMS、ジュネーブのYJ。
残念ながらCPとKGは準決勝で破れ、190cm前後のMS、YJで決勝。
経験値がモノを言ってYJが優勝した。
 
15歳以下、18歳以下のジュニアではそれぞれローザンヌのPL、SFが優勝した。
女性ではチューリッヒのKSが優勝。同業の日本人で仲もいいので本当に嬉しかった。
DKを破ってくれたのも…。
 
ローザンヌはメダルの数は減ったものの、去年にも増して内容は良かった。
自分にとってもいい経験になった。
去年は半分程度の人数でベスト8、今年はベスト16どまり。
でもちょっとは進歩したかなぁ、と思うし、
ローザンヌ以外のいろんな人から自分の剣道についての講評を戴くことができて、
本当に良かった。
楽しかったぁ…。