スイス大会(2)

イタ飯屋での夕食の後、消防署併設のAbris de Protection Civileに泊まる。
予想していたものと違い、シェルターではなく、
20-30畳程度の部屋にベッドがズラーッと並んでいるだけのもの。
軍隊などの状況に似ているかもしれない。
さすがスイス人。とっとと寝袋を取り出して、さっさと寝てしまう。
この部屋にはオリヴィエとRP、そして女性のATと僕の4名。自然とお互いに間隔をあけて眠る。
疲れが酷く、すぐに寝てしまった。
4時頃に目が覚めて、窓から見える景色を見ながら音楽を聴いていた。
6時45分になり、オリヴィエが起き出し、
「俺はこれから歩いていくから」と言って出て行った。僕らも遅れて歩き出す。
これも本当にスイス的。歩いたら20-30分はかかるぞ…。
             
途中、歩いていると1台の車が止まる。剣道着を着た男の子が乗っている。
荷物を会場まで運んでやろうと言ってくれるのでお言葉に甘える。
そういや、以前Aarauの剣道セミナーに行って、歩いていたら同じようなことを経験したなぁ。
今回は竹刀も持っていなかったのに、よく分かったことだと思う。
                
会場について竹刀チェック。7時から竹刀チェックだったけど、遅れていた。
さて、今日は個人戦。
僕のカテゴリーは2段以下で59名がエントリーしている。
まずはプール戦で3分の2に減らして、そこからトーナメント。
プール戦ではBaselのMSに当たる。
自分より20歳程年下の熊の様な大男。強いことで有名なヤツ。
試合前に「当たるよね」と声をかけられる。
その後、たすきをつけていたら向こうで威嚇しているように踏ん張ったた姿。
僕の傍らにはKGがいて「奴の面には気をつけろよ。あと引き面も上手いからね」と教えてくれる。
さて、自分の番。流石に大きい。うーん、やっぱり篭手かな。
攻め入ろうとするが入れない。居着いたところで面1本。
その後、引き面で1本。何か訳の分からんうちに2本負けした。
KGが「言ったとおりやろ」と言ってくるが、悔しくてたまらん。
MSと握手をした後、会場の隅の自分の荷物のあるところに戻り、面を外す。
自分の胸の中で悔しさがどんどん増しているのがわかる。
思わず涙がこぼれた。一旦こぼれ出すと止まらん。
慌てて面手拭で隠そうとするが、準備の為に戻ってきたAPSに横目で見られた。
      
でもトーナメントがある。
若干ボーッとしていたが、何か吹っ切れた。
勝ちに拘らず、自分が納得できるだけのことをしよう、次が最後になるかもしれないから、そう思った。 

皆の試合を見て、トーナメントの組み合わせが決まるのを待っていたら、
またもや大柄の男に「次、当たるね。よろしく」、と声をかけられる。
それがまたもBaselのSR。自分は試合の前に相手に声をかけたりするのは嫌。
しかも真っ白な状態で次の試合に臨みたかったので、こういった挨拶は辛い。
でも「よろしく」と答え、暫く続くトーナメント戦を観戦し、仲間を応援する。
Lausanneは8/11がトーナメントに出ている。
自分の番はちょうど真ん中くらい。
タスキの色が急に変わったりしてバタバタして、礼もそこそこに試合開始。
声をかけて気合いを入れたら、ストンと落ちた。
相手はやっぱり大きい。面を狙うが竹刀でしのがれる。
相手の面に対して返し胴をしたが間合いが近くてダメ。自分でもよくわかった。
剣先でちょっと払ってみたら意外に硬かった。
そうこうしていたら相手の出頭が良く見えだした。
出端籠手や、と思う間もなく、身体が反射的に反応していて1本取る。
ちょっと落ちついた。
これを守るか、さらにどんどん攻めるか。
自分の中では攻めるという選択肢ししかなかった。
グッ、と攻め入ると面を打とうとしたので、やっぱり出端籠手。2本目。
勝っちまった!
礼を終えSRに挨拶したが、試合前のような感じはなかった。
MSとの試合を見ていて、絶対に勝てる相手やと踏んでいたのかな、とも思った。
KGが「籠手、よかったです!yasuはやっぱり籠手やね」と喜んでくれる。
この1勝だけで充分だった。
できなかったこともいっぱいあるけど、自分のやるべきことが少しはできたから。
でも次の試合がある。
此処まででLausanneは5/8に。
            
待っていると、またWintherthurの大柄の男に「よろしく」と声をかけられる。
自分よりも年上かな?でも、試合前の挨拶は嫌やな、と再び思う。
残っている仲間の試合では意外にもTPやESGが負けてしまい、びっくり。
TPはsemi final位までには行くと思っていたから。
SLは順当。SKもいつもながらの綺麗な剣道で勝利。
うちの会場では僕一人になっており、遅れていたので、みんなの試合を見てから自分の番。
            
相手はAN。大きいなぁ。力で身体をぶつけて押してくる。
危ないなぁ、強引やなぁと思い、よけながら払い籠手を頂く。
1本取れた。
その後も体当たりを繰り返してくる。あれっ、と思ったら、場外に出ていて反則1回。
主審の顔を見たらオリヴィエだった。
その後も強引な打ちこみをしてドンドン押してくる。
これで反則を取られたら恥や、と思い、体捌きをしたり、
積極的に向きを変えて自分が試合場の中央近くになれるように工夫する。
立ち位置に気を配っているうちに、居着いたところで引き籠手を取られる。
これは本当に不覚だった。悔まれる1本。
これで自分にも火がついた。相手の動きは遅いと思っていたので、出端籠手をお見舞いする。
自分でも納得いったし、残心もいつになくしっかりとれた1本。
勝った!スッとした。
此処まででLausanneは3/5。
次はquater final。SLやSKのいる会場では既に開始されていて、残念ながら二人とも負ける。
自分の相手はまたBaselのDP。小柄だが横幅はゴッツイ。170cm 90kg位?
若くて中心を強く取っている。動きは速い。
相打ちになったが、面を1本取られた。
今回は面を中心に攻める。入った!と思った。
でもDPは打たれる時に頭を後屈させる癖があり、ものうちは面金にも当たってしまう。
残念。
その後同じようなチャンスがあって面を打つが同じ結果。どうしたらええねん、と思う。
しようがない。戦法を変える。取りにくいが籠手にもより注意を払う。
でも決められない。面もかわされる。
結局もう一度相打ち面で1本取られ、2本負け。これで自分の仕事は終了。
Lausanneはこの時点で0/3に。
「yasu、よかったよ!」「頑張ったな」という仲間の声が暖かかった。
あと1回勝ててたらメダルだったのに…。
DPはsemi finalで負けたが、MSはfinalまで残っている。
ここで僕らのカテゴリーは一時中断。決勝戦は午後の最後に。
          
同じ時間にオープンの試合が行われている。3段以上の人を対象にしているもの。総勢20名。
Lausanneからは6名が出ており、全員プール戦から抜けだしてトーナメントに出場。
             
この時点で昼食。
弁当の数が足りず、みんなでシェアすることになる。
ただ僕はパウンドケーキのようなパンを持っていたので、アーミーナイフで切って食べる。
CPがそれを見て「yasuもスイス的になったなぁ」と横で笑う。
オリヴィエが「yasu、これで昨日の心残りが解消できたやろ。
DPとの試合、面は2本ともよかったんや。
抜けるとか引くとか残心までしっかりしたら、多少面金に当たっとろうが、
打突機会も良かったし1本にしようと思っとったんよ。」と声をかけてくれる。
自分でアカン、と思って止まってしまったのがいけなかったやな、と反省する。
              
昼からはオープンの続き。途中でオリヴィエとCPの師弟対決があったりする。
足にトラブルを持つオリヴィエは不利。しかもCPは速いし、面を取って師匠を下す。
その後もCPはKasahara Cupでの優勝者OKに打ち勝つ。
Semi finalにはMWとCPの2人が残っていた。
MWは途中の試合でも突きや引き面という道場ではあまり見せない技で勝ったりして驚かされた。
でもsemi finalではCKに破れる。
         
最後の最後に全てのfinal gameが行われる。
女性はDKとLausanneのAC。DKは抜き胴が多かったなぁ。DKが優勝。
2段以下のカテゴリーでは、MSが引き面2本で優勝。
オープンではCKがCPを下して優勝。
CPも1本返したりして白熱した試合だったのだが、CKの速い面に負けてしまった。
            
閉会式でも幾つか大きなトラブルがあったが、まぁ御愛嬌。スイス的ではなかったなぁ。
閉会式後、写真を撮ったり、違う道場の人と再会を約束したりして4時頃にはAuを出発。
オリヴィエも車に乗っていくことになり、ミニバスは満員。
近くのガソリンスタンドに4台の車が集合し、ビールを買い込んで祝杯を上げる。
Lausanneは35あるメダルのうち17個を獲得した。
Zurichに1位を持っていかれることが多く、2位に甘んじるカテゴリーが多かったが、
これは来年の課題。
東に見えるオーストリア側のアルプスはまた違った勇壮な景観を見せ、美しかった。
みんなそれを見ながら1杯。
SLが「yasuは今日、2人のチャンピオンと戦ったよな。」
と言ってくる。そう。
2段以下のカテゴリーでの優勝者MS、16−18歳のカテゴリー優勝者のDP。
2人ともに負けたけど、いい経験になった。
            
帰りはEGSとオリヴィエが運転をするということで僕は後部座席でCGとずっと話し込む。
途中でうたた寝してしまった。
渋滞に巻き込まれ、Lausanne到着は9時頃。
疲れたが、本当にいい試合だった。
また皆と試合にいけたらいいなぁ、と切に望む。