土に帰る

帰ろうと職場の屋外の通路を歩いていたら、茶色の塊が目に入った。
遠目では判別できなかったが、何か引き寄せられるような感じがあり、
近づいたところ、一羽の雀であることが分かった。
こと切れていた。
正直に言うと、一旦は側を通り過ぎてしまう。
でもどうしてだろう。
何だか放っておけなくなり、戻ってその亡骸を手に取った。
息を引きとってかなりの時間が経っていたためか、
はたまた、強い夏の日差しを浴びていたためか、亡骸は既に硬かった。
目は堅く閉じられ、口元はギュッときつく結ばれていた。
どう贔屓目に見ても穏やかな死ではなかった。
でも、どうしてこの広場で死んでしまったんだろう。
木陰も花も水も、おおよそ自然と呼べるものは何一つない。
あるのはただ、青空。
雲のない澄みきった青空の下、熱せられたアスファストの上で
死んでからもさらに焼かれ苛まれ続けるのを見るのは忍びなかった。
屈託のない青空がかえって疎ましくも思えた。
土に帰そう。
そう考え、亡骸を持って職場に戻り、帰路に着いた。
帰る道すがら、墓にふさわしい所がなかろうかと探し回ったが、
納得できる場所が見つからない。
仕方なく墓地探しは後回しにし、剣道の稽古に向かった。
稽古後、はたとひらめく。
そうだ、剣道場の横のMon Reposの公園に埋めてやろう。
森のような木々の中、美しい花々が咲き乱れ、様々な鳥も飛んでくる。
遊んだり、読書したりする人の行き来も多く、賑やかだ。
一本の大木を選び、その根元を掘って雀の亡骸をうずめた。
来世ではどのような姿になるかはわからぬ。
ただ往生し、無事来世を迎えてくれるよう手を合わせた。
突き抜けるような青の消えた空から夜の帳は既にしっとりと降り、
時はやがて真夜中を迎えようとしていた。
                     
大阿闍梨の本を読んで、数日しての出来事。
何か因縁めいたものを感じた。
妙に雀に自分がダブる。
のたれ死んでも、土には帰りたいと願う。
そして、どんなに小さくてもいいから次の生命に繋げたい。
はたして、私の亡骸をうずめ、
土に帰してくれる者はいるのだろうか。